ベルサイユに雨が降る

8時に目が覚めた。シャワーを浴び、早速外へ出る。

プラスドクリシーにはマクドナルドがある。パリに来てまでマックで食べることはないと思ったが、軽く済ませたい朝食だから、カフェで高いものを食べるよりこちらが良いかと、入ってみることにした。日本と同じように朝マックをやっていて、ベーコンエッグマフィンと紅茶のセットで2.5ユーロ。高いのか安いのか、よくわからない値段だ。マフィンは、味は日本とほとんど変わらないが、小さめで作りがとても雑だった。日本の方が、まだマシかもしれない‥

この日は、丸一日ルーブル美術館を見て回る予定だった。地下鉄を乗り継いで10時にルーブルに着くも、全く誰もいないではないか。これはおかしいと入口に行ってみると、フランス語でよく読めないが、どうやら「火曜日は休館日」と書かれている。割と綿密な計画を立てていたのに、ここにきて初歩的なミスをしてしまった。しかし、ただ突っ立っているわけにもいかないので、予定を変更して金曜日に行くはずだったヴェルサイユ宮殿に向かうことにした。

ヴェルサイユ宮殿はパリ市外にあって、メトロでは行くことができないので、RERという急行鉄道を使う。RERは治安が悪いと聞いていて、まさか早速この日に使うことになるとは思わなかったが、意を決して乗ることにした。メトロでアンヴァリッド駅まで行き、RERのC5線に乗換える。車両の外観は確かに汚く、スプレーで落書きされていたりする。いかにも治安が悪そうである。2階建ての車両なので2階席に座ってみた。車両の後ろで陽気にアコーディオンを弾く男がいて、少しうるさかったが、これがフランスの鉄道の一風景なんだなと思うと可笑しくなった。

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11時、ヴェルサイユ・シャトー・リヴ・ゴーシュ駅を降りる。小雨が降っていて、何も持っていないので駅を出られずにいると、黒人の男が折り畳み傘を売りつけてきた。ここで買うのはとてもシャクだったが、宮殿に入る前にずぶ濡れになっては元も子もないので、仕方なく5ユーロ払った。かなり粗悪な造りの傘だった。

宮殿前の広場には、入場待ちの客が尋常ではないほど列になっていた。数十メートルの列が、5、6回も折り返して層を成している。入場するまで、軽く1時間以上待ちそうだった。雨は小雨を超えてどんどん強まり、この列に並ぶのかと思うと気が滅入ったが、わざわざRERに乗ってきた手前、おめおめと帰るわけにはいかない。ひたすら耐えて待つことにした。

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僕はこの日までずっとTシャツ一枚で過ごしていた。これはどう考えても無謀だった。雨はいよいよ土砂降りになり、風が吹き荒れて、ボロ傘が何度も裏返しになった。小声で「寒っ‥」と呟くと、目の前に並んでいた男性が日本人で、「そりゃ、寒いでしょ。その格好じゃ」と声を掛けてきた。40歳過ぎぐらいのおじさんだった。彼も旅行中で、バルセロナに行くついでにフランスに立ち寄ったが、まさかここでこんな土砂降りに遭うとは思わなかった、ついてない、と言っていた。入場口までずっと彼と話をし、かなり気が紛れたが、入場直前で彼が入場券を持っていないことがわかり(僕はミュージアムパスを持っていた)、列から剥がされてしまった。その後彼がどうなったかはわからない‥

 

2時間半ほど宮殿内を見て回った。綺羅びやかすぎて、とても僕の趣味とはかけ離れていた。

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宮殿内にカフェがあり、そこでハイネケンとサンドイッチを食べた。足元をネズミがうろちょろしていた。

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宮殿には広大な庭園がある。あわよくばその中にも入ってみたかったが、追加で8ユーロが必要で、ミュージアムパスは使えないと言われてしまい、諦めて帰ることにした。

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ヴェルサイユを出たのが15時過ぎ。パリに着くのが16時前だとして、観光する時間はまだまだ十分にある。そこで、シテ島にあるサント・シャペル、コンシェルジュリーに行くことにした。サント・シャペルは荘厳なステンドグラスで有名。コンシェルジュリーはかつての牢獄で、マリー・アントワネットが幽閉されていた場所でもある。早速サント・シャペルに入ろうとするも、これまた驚くほどの入場待ちが列になっていて、午前中にヴェルサイユで辛い思いをした身としては、これ以上列に並ぶのは耐え難かった。一方のコンシェルジュリーは、その陰鬱な雰囲気に人気がないのか、全く誰も並んでいなかったので、こちらに入ることにした。ここでもミュージアムパスを使うことができ、パス様々であった。

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コンシェルジュリーの中にも、多数の日本人観光客がいた。恐らく、ツアー客だろう。

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コンシェルジュリーを出、サン・ルイ橋を渡って、シテ島の東にあるサン・ルイ島へ。街なみを眺めながら東へ歩き続け、バスティーユ広場に着いた。

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バスティーユは、フランス革命の発端となったバスティーユ牢獄の襲撃で有名だ。今は革命の記念柱と、オペラ・バスティーユが建っている。

 

この日の締めくくりに、前日に疲れ果てて行くことができなかったエッフェル塔を拝むことにした。メトロ8号線、バスティーユ駅からエコール・ミリテール駅へ。

着いたのは17時半ごろで、日本なら間もなく日が暮れる時間だが、こちらはなお真っ昼間のように明るく、観光客で溢れていた。

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夜になると、エッフェル塔はシャンパンフラッシュというライトアップが行われるらしく、これを見るのが一つの楽しみだった。しかし一向に日が暮れず、20時前になってもまだまだ夕方かと思うような明るさで、ライトアップされる気配すらない。風だけは非常に強く、Tシャツ一枚の僕は寒すぎて鼻水を垂らしていた。近くの出店でホットコーヒーを注文し、その場でなんとか粘るも、いよいよ小雨が降り始めたので、泣く泣く諦めた。トロカデロ駅からメトロに乗ってホテルへ。RERに続き、電車の中でアコーディオンとギターを弾く2人組がいた。フランスではおなじみの風景なのだろう。なんとなく楽しくなった。

夜は前日と同じく、心安い「LEON」に行った。この日もエディ・マーフィは快く応対してくれた。が、フランスに来たからにはエスカルゴを食べようと思って、「スネイルのバター炒め」を注文したはずだったのに、出てきたのは「ムール貝のバター炒め」で、少しがっかりしてしまった。ビールは「Affligem」というベルギー産のものを飲んだが、前日のPELFORTHより好みだった。

この夜をもって、このホテルとはお別れだ。翌日はモン・サン・ミッシェルへ向かう。彼の地では、何が待ち構えているのだろうか‥